マヨネーズかけゴハン
通りすがりに、若い女の子が「マヨネーズをゴハンにかけて食べるのって信じられなーい!」と言っているのを聞いてしまった。
俺が育った昭和30年代は、戦後は終わったと言われていたが、都会でもない地方都市では、まだまだ貧しいのが当たり前だった。
氷に砂糖をまぶして食べたり、味噌をつけてにぎったおにぎりや、フライパンで冷やごはんを炒め、醤油で味付けした醤油炒めライスは貧乏っぽくうまい代物だった。
ちなみに醤油炒めライスは喜国雅彦の『傷だらけの天使たち』というマンガのなかで、貧乏な親子を描いた4コマのネタに使われていて、醤油炒めライスを食べようとする子どもを制して「それはオカズだ」と父親が言う回には大笑いしてしまったけど。
そしてマヨネーズゴハンである。
ほかほかと湯気のたつ、炊きたてのゴハンの上にチューブからニュルルとしぼりだしたマヨネーズをかけて食べるのもすてがたい味だった。醤油や味噌と違って、マヨネーズはふんだんにあるものではなく、ちょっと高級品だったところが、それをより魅力的なものにしていたのだ。
時は流れて昭和50年代。バイトで通っていた先には、大学生がたくさんいたが、その中の一人が「マヨネーズをかけたゴハンがこの世でいちばんうまい」と力説していた。
そこまで言わなくてもとは思ったが、否定してしまうこともできない気分で、同意を求められるとあいまいに笑うしかなかった。
貧乏な学生にとっては、醤油やソース、マヨネーズは立派にめしのおかずだったのだ。
それから20数年、1億総グルメといわれる時代だ。ガキでさえ、アマトリチアーナだのアラビアータだのといった料理や、バルサミコだのなんだのといった調味料のことを食べて知っている。
ついにマヨネーズごときでは、ゴハンにかけて食べることも信じてもらえなくなってしまったのだ。オリーブオイルをパンにひたひたとかけ、バルサミコをちょっとたらして食べるというのは信じているのだろうか? 昭和30年代のガキなら、誰も信じないような食べ方だ。信じなくてもいいから、世の中にはいろいろな食べ方があるのを認めなさい。
いいものを思い出させてもらったと、その日、マヨネーズを炊きたてのゴハンにかけて食べてみた。いまとなっては死ぬほどウマイというものでもなかったが、家のすきまをすりぬけ路地裏で遊んだことや、味噌おにぎりを作ってくれた、友達の亡くなったお婆ちゃんの顔をなぜか思い出した。
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